エデュ・プラニング数学課です。
「最近の子どもは学力が下がっている」—ここ数年、そんな話を耳にすることが増えました。
スマホの使いすぎ、動画ばかり見ている、本を読まなくなった。
理由はいろいろ挙げられますが、実際のところはどうなのでしょうか。
2025年7月、全国学力テストの結果が発表されました。
中学3年生の数学は平均正答率48.8%。調査開始以来、初めて5割を切ったそうです。
図形の証明問題では3割以上が白紙だったというデータも出ており、なかなかインパクトのある数字です。
これだけ見ると、やはり下がっているのではと思いたくなります。
ただ、この手の報道には少し慎重になる部分もあります。
そもそも全国学力テストは、毎年問題が違います。
去年と今年で同じ問題を解いているわけではありません。
つまり、正答率が下がったならば学力が下がった、とは単純には言えないはずです。
文科省も「難易度が毎年違うから、過去との単純比較はしないでほしい」と説明しています。
作成した側が比べないでと言っているのに、数字だけを見て結論づけるのは、少し気になるところです。
教材制作の現場にいると、同じ難易度の問題を作ることの難しさを日々実感します。
自分で作った問題は、どうしても簡単に見えます。
問題文という前提から、解答というゴールまでの道筋を自分で想定しているわけですから、
当然といえば当然です。
数値の調整で難易度をコントロールしているつもりでも、
蓋を開けてみたら思わぬ正答率でどきっとした、ということが何度かあります。
同じ大問の出題する計算問題で、正答率が40%近く変わることがあります。
例えば、正負の数の基本的な計算なら正答率90%台後半でも、
指数や分数が入った途端に50%台まで落ちることは大いにあります。
同じ「計算」でも、数値の設定ひとつでここまで差がつきます。
証明問題も同様です。
穴埋め形式か完全記述形式かで、正答率がまったく変わってきます。
同じ単元を問うていても、出題形式が変わるだけで結果が大きく動くのです。
こうした調整の積み重ねで問題の難易度は決まります。
だからこそ、正答率の上下だけを見て学力が下がったと判断するのは、
慎重になったほうがいいのかなと思います。
ちなみに、文科省は毎年のテストとは別に「経年変化分析調査」というものを実施しています。
過去と同じ問題を使うことで、純粋に学力の変化を測ろうという調査です。
ただ、問題は非公開。詳細なデータも公開されていません。
外からは何が起きているのか、わからない。これもまた、もどかしいところです。
結局のところ、学力は下がっているのかと聞かれても、正直なところ断言はできません。
問題の難易度、出題形式、生徒の慣れ、社会環境の変化、⋯
要因が多すぎて、正答率の数字だけでは何とも言えない。それが本当のところです。
ただ、ひとつ言えるのは、数字の見栄えに振り回されないべきかと思います。
48.8%、3割が白紙。こうした数字はインパクトがありますが、
その裏にある条件を見ずに学力低下だと結論づけるのはもったいない気がします。
模試や教材を作る仕事は、ある意味で自分を出さないことが求められます。
去年と同じ難易度で、同じ空気感で、でも違う問題を作る。
そうした地味な調整の積み重ねで成り立っている仕事だからこそ、
正答率の上下だけで学力を語ることの難しさを感じています。
数字の奥で何が起きているのかを見ること。
問題を作る側にいる身として、そこは意識していたいと思っています。
参考情報
・文部科学省 全国学力・学習状況調査 公式ページ
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/gakuryoku-chousa/
・全国学力テスト2025年度結果の報道記事(読売新聞)
https://www.yomiuri.co.jp/national/20250714-OYT1T50182/
・経年変化分析調査について(国立教育政策研究所)
https://www.nier.go.jp/21chousakekkahoukoku/kannren_chousa/keinen_chousa.htm