エデュ・プラニング理科課です。
ようやく季節も秋めいてきましたが、皆様この夏はどう過ごされましたか?みっちり学習、指導をされた生徒や先生も多かったのではないでしょうか。今回、理科課では高校理科における『生物』について、ピックアップしてみたいと思います。
高校理科といえば、2023年の高2生から教科書が改訂されています。そのため2023年度に高3生が学習する『生物』・『生物基礎』と、高2生以下が学習する内容には違いがでています。新しい『生物基礎』の教科書については2022年、そして『生物』については2023年の4月、現高2生に行き渡りました。
今回は、2023年度から使用されている『生物』の教科書ではこれまでと比べてどのように変化したのか。そして、新しい『生物』では今後どのような問題の出題が増加しそうかを考えてみました。
まず、教科書が改訂されることで学習する単元・内容について、大きな追加や削除はあったのでしょうか。実は小さな変更点はあれど、大きな追加や削除はなかったといえます。
では、教科書はあまり変わらなかったのか?
いいえ、そんなことはありません。ほぼ全分野に影響する変更が入っています。
今回の教科書改訂で『生物』に対して行われた変更、それは最初に学習する単元を「進化」とし、遺伝、生理、発生、生態、系統といったそれ以外の全ての分野を「進化」の観点から学べるようにしたというものです(=タイトルの〇〇にあてはまるのは「進化」ということですね)。
今回の改訂については「指導しにくい」という声もあるそうですが、これは単純にこれまでと指導の視点が変わったから、ということや「進化」を起点として“そこから他の単元を理解させる”という学習構造の難しさによることなのかもしれません。
新教科書では、大きな編成として「生物の進化」「生命現象と物質」「遺伝情報の発現と発生」…と始まります。「生物の進化」では細胞や遺伝子の変化・進化について扱われますが、減数分裂などはこの単元で触れつつも「遺伝情報の発現と発生」の単元でさらに詳しく学習していきます。
このように「進化」が『生物』の柱として全ての単元と関わりを持つ以上、上記の遺伝子以外でも“後続の単元の内容を最初の単元である「生物の進化」の中で触れる”必要が出てきます。この“「進化」でも触れたけれど後続の単元でも学習する”という構造はたしかに珍しく、学習または指導しにくいという声が上がることもわかるような気がします。
大胆な変更ともいえますが、20世紀の遺伝学・進化生物学者であるドブジャンスキーの言葉に「進化に照らさなければ、生物学は何も意味をなさない」というものがあるように、ある意味非常に『生物』らしい形になったといえます。
『生物』はときに、他教科との境界が曖昧になることがあります。それは、高校理科の範囲では『化学』との距離感の近さがわかりやすいかと思います。そんな中で『生物』をその他の理科から区別し『生物』たらしめている要素の一つが「進化」だといえます。
こうして『生物』という科目に「進化」という背骨を一本通すという指導要領上の変化が起きたことで、今後の入試問題にはどのような影響が出るでしょうか。
比較的基礎的な、知識事項の確認を主とした内容の入試については、今後も大きな変化はないように思います。これは新しい教科書となっても、学習する知識事項に特段大きな変化はないからです。
では、標準的またはそれ以上の難度の入試ではどうでしょうか。こちらについては、分野を複合させた形の設問の増加が多くなると考えられます。もちろん「進化」とその他の単元との組み合わせです。これは大問全体が「進化」との複合分野になることもあれば、小問単位で生物の特定の仕組みを「進化」の視点から利点や起源について考察させる、といった形も出てくるのではないかと考えられます。
地球において生命が誕生した35~40億年前、あるいは生命の誕生にいたる化学進化の開始を含めると、46億年前に地球が誕生したときが『生物』という科目のスタートといえます。
生物は幾度もの危機を乗り越えながら、誕生以来一度も止まることなく進化を続け現在にいたっています。呼吸や光合成、生物の構造や能力、特性、そして私たち人類が持つ脳構造による意識などは、1つの例外もなくこの進化の中で生み出されてきたものです。そして、この先も生物の進化は続き、新しい生物が生まれつづけていくことでしょう。
今回の改訂を『生物』における新しい第一歩として、“46億1年目”からのさらなる生物の進化へ、一緒に想いを馳せてみてもいいでしょう(受験科目を超えた生物の世界も、また楽しいものですよ)。
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